肺炎球菌ワクチンは、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)が引き起こす感染症から保護するために開発されたワクチンであり、肺炎、髄膜炎、敗血症、中耳炎、副鼻腔炎などの重篤な疾患の予防に効果がある [1]。主に2種類のワクチンが存在する:1つはポリサッカライド抗原を含む肺炎球菌ポリサッカライドワクチン(PPSV23)、もう1つはポリサッカライドをタンパク質キャリアに結合させた肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13、PCV15、PCV20、PCV21/CAPVAXIVEなど)。結合型ワクチンは、T細胞を介した免疫応答を誘導し、特に乳児や高齢者において強力で持続的な免疫をもたらす [2]。米国疾病予防管理センター(CDC)や世界保健機関(WHO)は、乳児、高齢者(50歳以上)、および慢性疾患を持つ人々など、特定のリスク群に対して接種を推奨している [3]。ワクチンの導入により、接種を受けた個人だけでなく、集団免疫の効果によって非接種者にも間接的な保護がもたらされ、侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の発生率が大幅に低下した [4]。一方で、ワクチン血清型の減少に伴い、非ワクチン血清型(NVT)の出現という「血清型置換」という課題も生じており、これに対応するためPCV20やPCV21といったより多価なワクチンの開発が進んでいる [5]。また、抗菌剤耐性の問題も深刻であり、ワクチン接種は耐性株の拡散を抑制する重要な手段とされている [6]

主なワクチンの種類と作用機序

肺炎球菌ワクチンには、主に2つのタイプが存在する:肺炎球菌結合型ワクチン(Pneumococcal Conjugate Vaccines, PCVs)と肺炎球菌ポリサッカライドワクチン(Pneumococcal Polysaccharide Vaccines, PPSVs)。これらのワクチンは、構成、作用機序、誘導される免疫応答、対象年齢層において根本的に異なる特性を持つ [7]

肺炎球菌結合型ワクチン(PCVs)

結合型ワクチンは、肺炎球菌のカプシド多糖を免疫原性のあるタンパク質キャリア(例:CRM197、ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド)に共有結合させたものである [8]。この化学的結合により、ワクチン抗原はT細胞非依存性からT細胞依存性の免疫応答へと変化する。T細胞依存性応答では、CD4+ T細胞、特に濾胞性ヘルパーT細胞(Tfh)が、抗原特異的なB細胞に共刺激信号を提供し、クラススイッチング、体細胞超変異、長期生存プラズマ細胞および記憶B細胞の生成を促進する [9]

このT細胞の関与により、結合型ワクチンは、より強力で持続的な免疫を誘導する。具体的には、高い濃度の血清型特異的IgG抗体、高い抗体アフィニティ、そして強固な免疫記憶が得られる [10]。臨床研究では、PCV接種後に循環する血清型特異的記憶B細胞(MBCs)が検出され、再び肺炎球菌抗原に曝露された際に迅速に抗体産生細胞へと分化することが示されている [11]

さらに、結合型ワクチンは、侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)に対する保護の相関因子とされるオプソノファゴサイト活性(OPA)の高い抗体を誘導する [12]。また、重要な公衆衛生的利点として、結合型ワクチンは接種者鼻咽頭部におけるワクチン血清型肺炎球菌の保菌を有意に低下させ、感染の連鎖を断ち切ることで集団免疫をもたらす [13]

現在利用可能な結合型ワクチンには、以下のものがある:

  • PCV13(プリベナ13):13血清型をカバー
  • PCV15(バクスノゥヴァンス):15血清型をカバー
  • PCV20(プリベナ20):20血清型をカバー
  • PCV21(キャップバクシブ):21血清型をカバーし、2024年6月に米国食品医薬品局(FDA)により成人18歳以上への使用が承認された [14]

肺炎球菌ポリサッカライドワクチン(PPSV23)

一方、ポリサッカライドワクチン(PPSV23)は、23種類の肺炎球菌血清型の純化されたカプシド多糖を含むが、タンパク質キャリアは使用しない [15]。このため、PPSV23はT細胞非依存性タイプ2(TI-2)の免疫応答を誘導する。このメカニズムでは、多糖が成熟したB細胞のB細胞受容体を直接架橋し、主にIgMおよびIgG2アイソタイプの抗体産生を促進するが、クラススイッチングや記憶B細胞の有意な形成は見られない [8]

その結果、PPSV23は、抗体の濃度が比較的低く、持続期間が短く、免疫記憶が乏しいという特徴を持つ。抗体レベルは接種後3〜4週間でピークに達するが、特に高齢者や免疫不全者では3〜5年以内に著しく低下する [17]。また、PPSV23は再接種に対して低応答性(hyporesponsiveness)を示すことがあり、繰り返し接種しても抗体応答が低下するため、その有効性に制限がある [18]

PPSV23は、鼻咽頭部の保菌を一貫して低下させず、そのため集団免疫を誘導しない [19]。その保護効果は、接種を受けた個体に限定される。このワクチンは、主に65歳以上の成人や、基礎疾患を持つリスクの高い個人に推奨されているが、免疫不全者や幼児(2歳未満)では効果が不十分である [15]

作用機序の違いがもたらす臨床的影響

年齢による免疫応答の差異

  • 乳児および幼児:2歳未満の乳児の未熟な免疫系は、T細胞非依存性抗原に適切に応答できない。このため、PPSV23はこの年齢層では無効であり、保護的な抗体レベルや免疫記憶を誘導できない [21]。一方、結合型ワクチンはT細胞の関与により、乳児においても非常に免疫原性が高く、小児期の肺炎球菌ワクチン接種プログラムの基盤となっている [22]
  • 高齢者:高齢者では免疫センセッセンス(加齢に伴う免疫機能の低下)により、先天性および適応性免疫応答が損なわれる。しかし、PCVsはPPSVsに比べて一般に優れた免疫原性を示す。PCV13は、65歳以上の成人において、PPSV23と比較してより高いIgG幾何平均濃度と優れたオプソノファゴサイト的滴度を誘導することが示されている [23]
  • 免疫不全者:HIV感染、血液悪性腫瘍、免疫抑制療法を受けているなどの免疫機能が低下した個人においても、PCVsはPPSVsに比べて一貫して優れた免疫原性を示す [24]

集団免疫と公衆衛生的影響

結合型ワクチン(PCVs)の最大の利点は、鼻咽頭部の保菌を低下させ、ワクチン血清型肺炎球菌の人から人への伝播を遮断することで集団免疫を誘導できることである [4]。乳児へのPCVの定期接種により、接種を受けた小児だけでなく、未接種の成人や高齢者においてもワクチン血清型IPDの発生が劇的に減少した。これは、強力な間接的保護の証拠である [26]。一方、PPSVsは保菌を低下させず、集団免疫に寄与しないため、公衆衛生的な観点から見ると、感染症制御のための効果的な手段としては劣る [27]

接種対象者と推奨スケジュール

肺炎球菌ワクチンの接種対象者と推奨スケジュールは、年齢、基礎疾患の有無、および個々のリスク要因に基づいて決定される。米国疾病予防管理センター(CDC)と予防接種諮問委員会(ACIP)の2024年版ガイドラインによると、接種対象は以下の主要なグループに分けられる [28][29]

成人(50歳以上)

2024年以降、50歳以上のすべての成人に対して肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)の接種が推奨されている。これは、高齢になるほど侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)のリスクが増加するためである。接種歴がない成人は、PCV15、PCV20、または2024年に承認されたPCV21(CAPVAXIVE)のいずれか1回接種を受けるべきである。PCV15を使用する場合は、その後少なくとも1年間の間隔をあけて肺炎球菌ポリサッカライドワクチン(PPSV23)を追加接種することが推奨される [30]。65歳以上の成人も同様のスケジュールに従うが、事前の接種歴や健康状態に応じて医師との共同意思決定(shared clinical decision-making)が重要となる [5]

小児(5歳未満)

乳児および幼児に対する定期接種は、重篤な感染症(例:髄膜炎、敗血症)からの保護のために不可欠である。CDCは、生後2か月から開始する4回の結合型ワクチン(PCV13またはPCV20)接種スケジュールを推奨している。具体的には、2か月、4か月、6か月に基礎接種を行い、12~15か月にブースター接種を行う [32][33]。このスケジュールにより、幼少期に最もリスクの高い時期に効果的な免疫が得られる。

高リスク成人(19~64歳)

19歳から64歳のうち、以下の基礎疾患を持つ人々は、IPDのリスクが高いため、特別な接種スケジュールが適用される:

  • 慢性の心臓、肺、肝臓、腎臓疾患
  • 糖尿病
  • 免疫不全状態(例:HIV、がん、臓器移植後)
  • 無脾症(脾臓が機能しない状態)
  • 耳蝸内植込み
  • 脳脊髄液漏出 [34]

これらの個人には、まずPCV15またはPCV20を接種し、その後PPSV23を追加接種することが推奨される。接種のタイミングは、患者の状態や過去の接種歴に応じて調整される。

喫煙者および喘息患者

19歳から64歳の喫煙者および喘息患者も、肺炎球菌性肺炎のリスクが高いため、接種が推奨されている [34]。これらの群は、呼吸器の防御機能が低下しているため、感染しやすく重症化しやすい。

接種方法とスケジュールの概要

肺炎球菌ワクチンは、成人および年長児では上腕三角筋に、乳児および幼児では大腿前外側に筋肉内注射で投与される [36][37]。異なる種類のワクチンを接種する場合、特に結合型ワクチンとポリサッカライドワクチンの間には適切な間隔をあける必要がある。これにより、最適な免疫応答が得られる [38]

副作用と安全性の監視

肺炎球菌ワクチンの安全性は、米国疾病予防管理センター(CDC)や世界保健機関(WHO)などの公衆衛生機関によって継続的に監視されており、全体として安全なワクチンと評価されている [39]。臨床試験および市販後の監視データによると、ほとんどの副作用は軽度から中等度で、数日以内に自然に消失する。これらのワクチンは、侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の予防において、リスクよりも利益がはるかに大きいと広く認識されている [40]

常見な副作用

肺炎球菌ワクチンの最も一般的な副作用は、接種部位および全身に現れる軽度な反応である。接種部位反応としては、疼痛発赤腫脹圧痛がよく報告されており、特にPCV20のような新しい結合型ワクチンを接種した成人で顕著である [41]。これらの反応は多くの接種者に見られるが、通常は48時間以内に軽減する。

全身性の副作用としては、軽度の発熱倦怠感頭痛悪寒筋肉痛(筋肉痛)、関節痛(関節痛)が報告されている [42]。小児では、イライラ食欲不振低体温が見られることがある [43]。また、接種部位にかゆみ隆起した皮膚が生じることもある [44]

稀な重篤な副作用と安全性上の懸念

重篤な副作用は非常にまれであるが、注意が必要な事象も存在する。最も重要な懸念の一つはアレルギー反応であり、アナフィラキシーを含む重篤な反応が、接種後数分から数時間以内に発生する可能性がある [45]。症状としてはじんましん、呼吸困難、顔面や喉の腫脹、胸の締め付け感が含まれ、直ちに医療対応を要する。

また、アートゥス反応(Arthus reaction)と呼ばれる過敏性反応が、過去に肺炎球菌ワクチンを複数回接種したことがある成人にまれに見られる。これは、既に高いレベルの抗体が存在する個体で、接種後に極度の局所的な腫脹や疼痛が生じる現象である [46]

一部の研究では、肺炎球菌結合型ワクチンの接種と、喘息などの反応性気道疾患のリスク上昇との関連が示唆されているが、結果は一貫しておらず、さらなる研究が進行中である [47]

安全性監視とエビデンス

肺炎球菌ワクチンの安全性は、承認前の臨床試験および市販後の監視システムによって広範にわたって確認されている。CDCの報告によると、PCV20の臨床試験では、大多数の有害事象が軽度であり、重篤な有害事象はプラセボ群とワクチン群の間でバランスしており、ワクチン関連の死亡は確認されていない [48]

米国のワクチン有害事象報告システム(VAERS)の2024年のレビューでは、PCV20接種後に報告された有害事象の81%以上が非重篤であったことが示された [49]。また、2025年のシステマティックレビューおよびメタアナリシスは、小児における結合型ワクチンの安全性と有効性を再確認し、主要な安全性上の懸念は認められなかった [50]。WHOのグローバルワクチン安全性諮問委員会(GACVS)も、2000年の導入以来、結合型ワクチンの安全性プロファイルは依然として安心できるものであり、有意な有害事象の一致した証拠はないと結論付けている [51]

免疫学的保護のメカニズムと相関因子

肺炎球菌ワクチンの免疫学的保護は、そのワクチンの化学構造、特に抗原の提示方法に大きく依存する。結合型ワクチン(PCV)とポリサッカライドワクチン(PPSV)では、誘導される免疫応答の質、持続性、および集団への影響に根本的な違いが存在する。これらの違いは、T細胞とB細胞の相互作用、記憶免疫の形成、および機能的抗体の産生という点で明確に現れる。

結合型ワクチンとポリサッカライドワクチンの免疫メカニズムの違い

肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)は、細菌のカプシド多糖を免疫原性の高いタンパク質キャリア(CRM197、ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイドなど)に共有結合させることで構成される [8]。この化学的結合により、本来T細胞非依存性である多糖抗原が、T細胞依存性抗原に変換される。この変換が、結合型ワクチンの優れた免疫原性の鍵となる。T細胞依存性応答では、CD4+ T細胞、特にフィルター形成T細胞(Tfh)が、抗原特異的なB細胞に共刺激シグナルを送り、胚中心でのクラススイッチ、体細胞超変異、そして長期にわたる形質細胞および記憶B細胞(MBC)の生成を促進する [9]

一方、肺炎球菌ポリサッカライドワクチン(PPSV23)は、23種類の血清型の精製されたカプシド多糖を含み、タンパク質キャリアを持たない。そのため、このワクチンはT細胞非依存性タイプ2(TI-2)応答を誘導する。このメカニズムでは、多糖が成熟したB細胞のB細胞受容体(BCR)を直接架橋することで、迅速ではあるが限定的な抗体産生が引き起こされる。主にIgMとIgG2アイソタイプの抗体が産生され、クラススイッチや有意な記憶B細胞の形成はほとんど見られない [8]

免疫原性と記憶形成の差異

T細胞依存性応答により、PCVはPPSVに比べてはるかに優れた免疫原性を示す。PCVは、より高い濃度で、かつ持続性のある血清型特異的IgG抗体を誘導し、抗体の親和性も高める [10]。臨床研究では、PCV接種後に循環する血清型特異的記憶B細胞が形成され、再暴露時に急速に抗体産生細胞に分化することが確認されている [11]

対照的に、PPSVの抗体応答は一時的であり、特に高齢者や免疫不全者では、接種後3~5年で抗体価が大幅に低下する傾向がある [17]。記憶B細胞がほとんど形成されないため、PPSVのブースター接種では、むしろ応答が低下する「低応答性」が見られることがあり、繰り返しの接種が制限される [18]

機能的免疫応答と保護相関因子

免疫保護の重要な相関因子として、抗体の量(IgG濃度)だけでなく、その機能性、特にオプソノ化貪食活性(OPA)が挙げられる。OPAは、抗体が肺炎球菌を「オプソニン化」し、マクロファージや好中球による貪食と殺菌を促進する能力を測定する。PCVはT細胞の支援により、高親和性で機能的な抗体を生成するため、OPAが強く、侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)に対する保護と強く相関している [12]

一方、PPSVで誘導される抗体は機能活性が低く、一貫して鼻咽頭部の保菌を減少させない。このため、PPSVは集団免疫を誘導する能力が限られている [19]。免疫学的保護の相関因子としては、血清型特異的IgG抗体濃度(例:約0.35 µg/mL)やOPA価が用いられるが、これらは血清型や年齢層によって異なるため、普遍的な閾値の設定は困難である [61]

年齢層と健康状態による応答の違い

嬰児と小児

2歳未満の乳児は、未熟な免疫系のためT細胞非依存性抗原(PPSV)にほとんど応答しない。このため、PPSVはこの年齢層では無効である [21]。一方、PCVはT細胞を介した応答を誘導できるため、乳児期から強力な免疫を獲得でき、小児期肺炎球菌免疫プログラムの基盤となっている [22]

高齢者

高齢者では、免疫老化(immunosenescence)により、先天性および後天性免疫応答が低下する。しかし、PCVはPPSVに比べて一般的に優れた免疫応答を示す。PCV13は、65歳以上の成人で、PPSV23よりも高いIgG幾何平均濃度と優れたOPA価を誘導することが示されている [23]。さらに、PCVは少なくとも2年間持続する記憶B細胞応答を生成するが、PPSVはほとんど記憶B細胞を形成しない [11]

免疫不全者

HIV感染症、血液悪性腫瘍、免疫抑制療法を受けているなどの免疫不全者においても、PCVはPPSVに比べて一貫して優れた免疫原性を示す。HIV感染成人では、PCV13接種により、PPSV23接種者よりも高い濃度で持続性のある血清型特異的IgGレベルと強力な記憶B細胞応答が得られる [24]。このため、高リスク群ではPCVが推奨される。

ブースター接種とアジュバントの役割

高齢者など免疫老化が進んだ集団では、免疫応答を強化し、持続性を高めるために、ブースター接種とアジュバントの使用が重要である。抗体応答は時間とともに低下するため、ブースター接種により、血清型特異的記憶B細胞が再活性化され、急速な抗体リコールと増強されたOPA価が得られる [22]。米国では、PCV15を接種した後、1年後にPPSV23を接種するという順次接種が推奨されており、これはPCVによるプライミング効果を活かす戦略である [68]

アジュバントは、免疫老化による応答低下を克服するために不可欠なツールである。アジュバントは、先天性免疫経路を活性化し、抗原提示を改善し、T細胞の支援を促進することで、高齢者における免疫応答を強化する [69]。AS02Vなどのアジュバントシステムは、高齢者における免疫応答を有意に増強することが示されている。次世代のアジュバントプラットフォームとして、サポニン系やナノアジュバントが開発され、老化した免疫系においてもバランスの取れた免疫活性化が期待されている [70]

集団免疫と血清型置換の影響

肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)の広範な導入は、集団免疫の発現を通じて、接種を受けた個人だけでなく、非接種者にも間接的な保護をもたらした [4]。この効果は、特に乳児へのワクチン接種が中心である。乳児は肺炎球菌の主要な保菌者であり、PCV接種によりその鼻咽頭におけるワクチン血清型(VT)の保菌が著減する。これにより、保菌のコミュニティ内での伝播が阻害され、結果として接種を受けていない高齢者や成人における侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の発生率が大幅に低下した [4]。米国では、PCV7の導入後、接種を受けていない65歳以上の成人におけるPCV7対象血清型によるIPDの発生率が69%低下した。PCV13の導入後も、同様に60~90%の減少が報告されており、これらの間接的保護効果は、ワクチンの公衆衛生的意義を大きく高めた [73]

しかし、この成功の裏には、血清型置換(serotype replacement)という重要な課題が生じている。血清型置換とは、ワクチン血清型(VT)の保菌と疾患が減少した結果、生態的ニッチが空くことで、非ワクチン血清型(NVT)の保菌と疾患が増加する現象である [74]。これは、ワクチンによる選択圧の下で、肺炎球菌の集団構造が動的に変化していることを示している [75]。PCV7やPCV13の導入後、疫学的データは、VT-IPDの劇的な減少がNVT-IPDの増加と相関していることを明確に示している [76]。特に、高所得国では、血清型8、9N、15A、23B、12FなどがNVT-IPDの主要な原因として浮上しており、これらの血清型は一部で抗菌剤耐性を示すなど、新たな公衆衛生上の懸念を引き起こしている [77]

血清型置換のメカニズムと進化的背景

血清型置換の背後には、複数の遺伝的・進化的メカニズムが存在する。最も重要なのは、カプセルスイッチング(capsular switching)である。これは、肺炎球菌が自然感受性を介して他株からのDNAを取り込み、自らのカプセル多糖合成遺伝子座(cps locus)を置き換えることによって、ワクチンが標的とするカプセルを発現しなくなり、免疫逃避を図る現象である [78]。このプロセスにより、従来の抗菌剤耐性株が、NVTとして再び増殖する可能性がある。例えば、15A-CC63という多剤耐性クローンが、PCV13導入後に世界的に拡大していることが報告されている [79]。また、ワクチンによる選択圧は、VT株との競争がなくなったことで、もともと存在していたNVT株の拡大を促進する。このように、血清型置換は単なる血清型の交代ではなく、病原体の進化と適応の結果である [80]

抗菌剤耐性への影響と新たな課題

血清型置換は、抗菌剤耐性(AMR)の動態にも複雑な影響を及ぼしている。一方で、PCVは歴史的に耐性が高かったVT株(例:6B、9V、14、19F、23F)を効果的に排除したため、全体としての耐性肺炎球菌の負担を大幅に軽減した [81]。しかし、他方で、NVT株の中には耐性を有するものが多く、特に血清型15A、22F、35Bなどが多剤耐性を示す例が報告されている [82]。ワクチンによるVT株の排除は、NVT株、特に耐性を持つNVT株の拡大に寄与している可能性がある [83]。さらに、カプセルスイッチングによって、耐性遺伝子を保持したままNVTに変化したクローンが出現することで、耐性の持続的な存在が脅威となっている。

今後のワクチン政策と開発への示唆

血清型置換の影響は、今後のワクチン政策と開発戦略に大きな示唆を与える。現在の対応策の一つは、高価数ワクチン(higher-valency vaccines)の開発である。PCV15、PCV20、PCV21(CAPVAXIVE)などの新ワクチンは、PCV13以降に出現した主要なNVT(例:8、12F、22F、33F)をカバーするように設計されており、血清型置換による疾患負担の増加に対処しようとしている [5]。しかし、価数を拡大する戦略には限界があり、さらなる血清型置換や血清型の多様化が進む可能性がある [77]

そのため、より持続可能な解決策として、血清型非依存ワクチン(serotype-independent vaccines)の開発が注目されている。これは、カプセル多糖ではなく、肺炎球菌に広く存在する保存されたタンパク質抗原(例:肺炎球菌表面蛋白A(PspA)、肺炎球菌溶解素(pneumolysin)、PcpAなど)を標的とするものである [86]。このようなワクチンは、血清型の変動に左右されず、より広範かつ持続的な保護を提供できる可能性がある。ただし、カプセルが表面蛋白への抗体のアクセスを妨げる可能性があるため、開発には課題が伴う [87]。今後の成功には、血清型置換のモニタリングを継続し、進化する病原体に対応する柔軟なワクチン戦略と、抗菌剤の適正使用(抗菌剤管理)を組み合わせることが不可欠である。

抗菌剤耐性への影響と公衆衛生的意義

肺炎球菌ワクチン、特に肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)は、抗菌剤耐性(AMR)の拡散を抑制する上で重要な公衆衛生的手段として位置づけられている [6]Streptococcus pneumoniae(肺炎球菌)は、肺炎、髄膜炎、敗血症などの重篤な感染症の原因となり、その治療には抗菌化学療法が不可欠である。しかし、過去数十年にわたり、ペニシリン、マクロライド、セフェム系など広範な抗菌剤に対する耐性株が増加しており、臨床的な治療が困難化している [81]。PCVの導入により、ワクチン血清型(VT)の耐性株の伝播が著しく抑制され、耐性肺炎球菌感染症の発生率が低下した。

PCVの最大の効果の一つは、接種を受けた個人だけでなく、集団免疫を通じて非接種者にも保護をもたらす点にある [4]。PCVは、T細胞を介した免疫応答を誘導し、接種者の鼻咽頭における肺炎球菌の保菌(carriage)を大幅に減少させる [91]。この保菌の減少は、VT株のコミュニティ内での伝播を阻害し、結果としてVT株による感染症、特に耐性株の拡散を抑制する。米国でのPCV7導入後、VT株による侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)が90%以上減少しただけでなく、ペニシリン耐性株の検出率も劇的に低下した [92]。これは、耐性株が主にVT株に集中していたため、ワクチンがこれらの高リスク株を根絶したことを示している。

しかし、この成功は新たな課題も生み出した。VT株の減少に伴い、非ワクチン血清型(NVT)の出現という「血清型置換」が観察された [93]。NVTは、VT株が占めていた生態的ニッチを埋め、保菌率と感染症の原因としての割合を増加させた [94]。問題は、一部のNVT、例えば15A、22F、33F、35Bなどが、マクロライドやペニシリンに対する耐性を有する多剤耐性(MDR)クローンとして出現し、新たな感染症の原因となっている点である [95]。ゲノム解析により、これらの耐性NVTは、VT株の競争がなくなったことによる「競争的解放」や、耐性遺伝子を保有するVTクローンがカプシド遺伝子を再組換え(capsular switching)してNVTに変化する「ワクチン回避」の両方のメカニズムで拡大していることが明らかになった [80]

このように、PCVは抗菌剤耐性の全体的な負担を一時的に軽減したが、細菌の進化的適応により、耐性の「再配分」が生じた。この現象は、地域によって異なる。高所得国では、PCV13導入後のNVT(例:19A、12F、15B)の耐性上昇が報告されている [97]。一方、低・中所得国(LMICs)では、導入前の血清型多様性が高かったため、NVTの出現がより複雑な様相を呈しており、耐性の進展も地域差が大きい [98]。したがって、PCVの効果は、単に「耐性を減らす」のではなく、「耐性の構造を変える」という、より動的なプロセスである。

高価数ワクチンの導入と耐性管理

この課題に対応するため、PCV15やPCV20、PCV21(CAPVAXIVE)といった、より多くの血清型をカバーする高価数ワクチンの開発と導入が進んでいる [5]。これらのワクチンは、PCV13時代に出現した主要なNVT(例:8, 12F, 22F, 33F)をカバーしており、既に耐性株として問題となっている血清型を標的としている [100]。米国疾病予防管理センター(CDC)は、2024年に50歳以上の成人全員にPCV20またはPCV21の接種を推奨する方針を発表したが、これは高齢者におけるNVT-IPDの増加に対応するためであり、耐性株の拡散を未然に防ぐ戦略的措置でもある [29]

これらの高価数ワクチンは、既存の耐性NVT株の伝播を抑制することで、抗菌剤耐性のさらなる進展を食い止める可能性がある。しかし、数学的モデルは、ワクチン価数を増やすだけでは、血清型の多様性が増加する中で長期的な効果が限定的である可能性を示唆している [77]。したがって、将来的には、カプシドに依存しない次世代ワクチンの開発が不可欠となる。これには、肺炎球菌表面タンパク質A(PspA)、肺炎溶素(pneumolysin)などの保存されたタンパク質を抗原とするワクチンが含まれ、あらゆる血清型に効果があり、保菌そのものを抑制することで、耐性株の出現と伝播を根本的に阻害できる可能性がある [86]

公衆衛生的意義と統合的アプローチ

肺炎球菌ワクチンの抗菌剤耐性への影響は、公衆衛生上の意義を大きく超える。ワクチン接種は、抗菌剤の使用量を削減する。PCVが導入された地域では、中耳炎や肺炎などの細菌性感染症の診断が減少し、結果として抗菌剤の処方頻度が低下した。これは、抗菌剤使用という選択圧を弱め、耐性の進化を遅らせる効果がある。このように、ワクチンは、直接的な感染予防だけでなく、間接的に抗菌化学療法の負担を軽減し、耐性菌の出現を抑える「抗菌剤適正使用」(antimicrobial stewardship)の重要な柱となる。

結論として、肺炎球菌ワクチン、特にPCVは、抗菌剤耐性との戦いにおいて極めて有効なツールである。VT耐性株の根絶という初期の成功は、NVT耐性株の出現という新たな課題をもたらしたが、これはワクチンが病原体に強力な選択圧をかけている証拠でもある。この動的な関係に対応するためには、PCV13からPCV20への移行といった価数の拡大に加え、ゲノム疫学に基づく継続的な監視、そして最終的には血清型非依存の次世代ワクチンの開発が求められる。ワクチン接種と抗菌剤適正使用を統合したアプローチこそが、持続可能な抗菌剤耐性管理の鍵となる [104]

グローバルな導入とアクセスの課題

肺炎球菌ワクチン、特に肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)のグローバルな導入は、侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の発生率を劇的に低下させるという顕著な公衆衛生上の成果をもたらした。しかし、この成功は、国際的なアクセスの不均衡、財政的制約、供給チェーンの課題、およびワクチン導入後の進化的圧力による新たな課題という複雑な課題と隣り合わせである。これらの要因は、特に低所得および中所得国(LMICs)におけるワクチンの効果を制限し、世界中のすべての子どもが生命を脅かす感染症から保護されるという目標の達成を妨げている [105]

財政的持続可能性とアクセスの障壁

PCV導入における最も顕著な障壁の一つは、LMICs、特に中所得国(MICs)における財政的持続可能性である。Gavi, the Vaccine Alliance(Gavi)の支援により、多くの低所得国はPCVを導入できたが、Gaviの支援から卒業するMICsは、急激なワクチンコストの上昇に直面する。その結果、PCVの導入が遅れたり、カバレッジが低下したりしている。例えば、下位中所得国のPCVカバレッジは71%であるのに対し、上位中所得国では48%にとどまる。これは、Gavi支援後の財政的課題を明確に示している [106][107]。Gaviのアドバンス・マーケット・コミットメント(AMC)は、資格のある国々のワクチン調達を補助し、価格を安定化させることで、アクセスの改善に重要な役割を果たしてきた。インドの全国的なPCV導入は、AMCの支援を受けて実現し、年間出生の90%以上に当たる6000万回分以上のワクチンを調達することができた [108]。しかし、長期的な価格の妥当性と持続可能な供給は、少数のメーカーに市場が集中していることや、階層化された価格設定モデルの限界といった問題により、依然として課題である [109]

健康システムの能力とインフラの課題

効果的なPCV導入は、ワクチンの保管と輸送を2°Cから8°Cの厳格な温度範囲内に保つ必要があるため、強固な保健システムとインフラに依存している [110]。この「冷蔵チェーン」の維持は、電力供給が不安定で、交通網が整備されていない遠隔地や紛争地域では極めて困難である。冷蔵チェーンの途切れは、ワクチンの効力を損ない、廃棄率を高める可能性がある。Gaviは、冷蔵チェーン設備最適化プラットフォーム(CCEOP)を通じて、太陽光発電式冷蔵庫を含む10万点以上の冷蔵設備を50か国以上に配備し、冷蔵チェーンの強化に貢献してきた [111]。ケニアでは、大規模な冷蔵チェーンのアップグレードが行われ、ワクチンの保管能力が向上し、損傷のリスクが低減した [112]。さらに、医療従事者の不足や不均等な配置も、サービスの提供を制限する要因となっている。エチオピア、ナイジェリア、シエラレオネ、ウガンダで試験された、疫病対応型の一次医療(PHC)モデルは、定期予防接種と緊急対応の能力の両方を強化することが示された [113]

ワクチン導入の決定と地域固有の証拠

ワクチン導入の決定は、肺炎球菌感染症の疾病負担、血清型分布、費用対効果に関する地元のデータの有無に大きく影響される。しかし、多くのLMICsは、政策立案や予算配分を支援するための地域固有のデータを欠いている。WHOは、新しいワクチンを導入する前に、経済評価と疾病負担の評価を行うことを推奨している [114]。PCV導入は、資源が限られた環境でも、子ども死亡率と医療費を削減する上で非常に費用対効果が高いことが示されているが、その分析を行う技術的能力の不足が、特にGaviの技術支援を十分に受けていないMICsにおいて、政策決定を遅らせる要因となっている [115][116]。地域の研究機関の強化や、地域データネットワークの支援は、政策立案を支援し、導入後の影響を監視するために不可欠である。

ワクチン接種率とコミュニティへの対応

ワクチンが利用可能であっても、ワクチン接種をめぐる不安、誤情報、文化的信念、医療制度への不信感により、接種率が制限されることがある。サブサハラ・アフリカでは、政府への不信、過去の医療体験の否定的な記憶、宗教的・伝統的信念が、接種をためらわせる主な要因であるとされている [117][118]。このような不安に対処するには、文化的に配慮したコミュニケーション戦略、コミュニティとの関与、医療従事者の教育が必要である。ケニアでは、副反応への懸念や、病気のリスクが低いと感じていることが、定期予防接種の障壁であることが明らかになった。透明な対話を通じて信頼を築き、コミュニティリーダーを巻き込むことが、受容性を高める上で効果的である [119]

不均等なアクセスと疎外された集団

PCVへのアクセスの不均等は、国境を越えて存在する。高所得国や都市部の住民がまず恩恵を受ける一方で、農村部、疎外された集団、紛争地域のコミュニティは取り残される。エチオピアやアメリカ合衆国では、農村部に住む子どもは、都市部の子どもに比べてPCVの接種を完了する可能性が低いことが示されている [120][121]。貧困、性別格差、社会経済的地位といった構造的な障壁が、最も脆弱な子どもたちへのアクセスを制限している。不均等を解消するには、モバイル出張診療、コミュニティベースの配布、母子保健サービスとの統合といった、ターゲットを絞った戦略が必要である [122][123]。Gaviの支援を受けた国々のうち61か国で実施された、不均等是正戦略の総合的分析によると、地理的なターゲティング、モバイルクリニック、カスタマイズされたコミュニケーションを組み合わせたプログラムは、最も疎外された集団のカバレッジを著しく向上させた [124][125]

Gavi支援からの移行と持続可能性

Gaviからの支援を受けてPCVプログラムを開始したMICsが、自らの財政でワクチンを賄う「移行」の過程は、カバレッジ維持にとって新たな課題である。Gaviの支援が終了すると、安価な価格での調達ができなくなり、多くのMICsは高価な市販価格に直面する。ガーナは2026年までにGaviの支援から完全に移行する予定だが、PCVプログラムの持続に多大な財政的負担がかかっている [126]。Gaviは2020年に「中所得国アプローチ」を導入し、移行中の国々への知識共有、技術支援、催化的支援を提供することで、カバレッジの後退を防ごうとしている [127]。しかし、移行モデルは、国の内部での不均等や経済的ショックへの脆弱性といった、MICsの複雑な現実を十分に反映していないとの批判もある [128]。持続可能なPCVカバレッジを確保するには、国内資金調達メカニズムの強化、地域的な調達と市場形成、費用対効果の高いワクチンへのアクセス拡大、移行後の監視と支援システムの確立が不可欠である [129]

ワクチン政策と今後の展望

肺炎球菌ワクチンの導入は、侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の世界的な負担を劇的に軽減し、小児および高齢者における肺炎、髄膜炎、敗血症の発生率を低下させた [76]。この成功は、乳児への定期接種プログラムがもたらした強力な集団免疫の効果によるものであり、接種を受けた子どもだけでなく、高齢者など未接種の集団にも間接的な保護がもたらされた [4]。しかし、ワクチン血清型の減少に伴い、非ワクチン血清型(NVT)による疾患の増加という「血清型置換」という新たな課題が浮上している [93]。この動的な病原体の進化に対応するため、今後のワクチン政策は、より多価な結合型ワクチン(PCV)の導入と、血清型に依存しない次世代ワクチンの開発という二本柱で進展している。

ワクチン政策の進化:多価化と接種対象の拡大

近年のワクチン政策は、血清型置換への対応として、より多くの血清型をカバーする多価ワクチンの導入にシフトしている。米国疾病予防管理センター(CDC)の諮問委員会(ACIP)は、2024年に成人の接種推奨年齢を65歳から50歳以上に引き下げ、PCV20またはPCV21(CAPVAXIVE)の接種をすべての50歳以上の成人に推奨した [28]。この変更は、より広い年齢層への接種が、疾患負担のさらなる低減と集団免疫の強化に寄与するという認識の表れである [29]。PCV20は、PCV13に含まれない血清型8、10A、11A、12F、15B、22F、33Fを追加し、特に成人で増加しているNVT-IPDをカバーするように設計されている [100]。これらの拡大されたカバレッジは、PSERENADEプロジェクトなどのグローバルな疫学データに基づいており、PCV13導入後の主要な残存疾患原因血清型を特定し、ワクチンの組成をデータ駆動的に最適化している [93]

次世代ワクチンの開発:血清型を超えた保護

多価化の戦略は効果的であるが、肺炎球菌は進化し続けるため、無限に血清型を追加する戦略には限界がある。このため、研究の重点は、すべての血清型に共通する細菌のタンパク質を標的とする「血清型非依存型」ワクチンの開発に移っている [86]。これらの次世代ワクチンは、肺炎球菌表面タンパク質A(PspA)、肺炎球菌溶血素、肺炎球菌共通タンパク質A(PcpA)などの保存された抗原をターゲットとする [138]。このアプローチの利点は、血清型置換のリスクを回避でき、より広範で持続的な保護を提供できる可能性がある点である [139]。ただし、細菌のカプセルが抗体のアクセスを妨げる可能性があり、接種された細菌株に対するワクチンの有効性が低下するという課題が残っている [87]

グローバルなアクセスと公平性の課題

ワクチンの公平なアクセスは、世界中で依然として大きな課題である。Gavi、ワクチン・アライアンスなどの国際的な支援により、60以上の低所得国でPCVの導入が可能になった [109]。しかし、中所得国(MICs)がGaviの支援から卒業すると、ワクチンの価格が急騰し、接種率の低下や導入の遅れを招く「卒業ギャップ」が生じている [107]。さらに、地理的、経済的、社会的要因により、都市部や裕福な層に比べて、農村部や貧困層の子供たちのワクチン接種率は依然として低い [143]。この不均等を是正するためには、地域別の疫学データの生成、地域に合わせた接種スケジュールの導入、そしてコミュニティを巻き込んだ取り組みが不可欠である [144]

監視と政策決定のためのデータの役割

今後のワクチン政策の成功は、継続的な疫学的および遺伝学的監視に大きく依存している。CDCの「活動的細菌性コア監視(ABCs)」や、世界保健機関(WHO)が支援するPSERENADEプロジェクトなどのグローバル監視ネットワークは、血清型の分布、抗菌剤耐性、疾患の発生動向を追跡し、ワクチンの効果を評価し、新たな脅威を早期に検出する [145]。これらのデータは、PCV15やPCV20といった次世代ワクチンの血清型選定の根拠となる [5]。また、Vaccine Safety Datalink(VSD)やVaccine Adverse Event Reporting System(VAERS)などの安全性監視システムは、大規模接種後の安全性をリアルタイムでモニタリングし、政策決定に信頼性をもたらしている [147]。今後も、データに基づいた意思決定(evidence-based decision-making)が、効果的で公平な肺炎球菌ワクチン政策の基盤となる。

参考文献