Axie Infinityは、2018年にベトナムのゲーム開発スタジオSky Mavisによって発表された、ブロックチェーン技術を基盤とするオンラインゲームである [1]。このゲームは、ポケモンにインスパイアされたライフシミュレーションやトレーディングカードゲームの要素を戦略的バトルと融合させた、いわゆる「Play-to-Earn」(P2E)モデルの先駆的存在である。Axie Infinityの中心となるのは、「Axies」と呼ばれるデジタルクリーチャーであり、これらは非代替性トークン(NFT)としてイーサリアムブロックチェーン上に記録され、各プレイヤーが真正な所有権を有する [2]。ゲームの進行には、Roninと呼ばれるサイドチェーンが用いられ、これにより取引手数料の削減と高速化が実現されている [3]。プレイヤーは、冒険モード(PvE)や対戦モード(PvP)でAxiesを育成・対戦させることで、スムーズラブポーション(SLP)やアクシー・インフィニティ・シャード(AXS)といった暗号資産を獲得できる [4]。これらのトークンは、暗号資産取引所で法定通貨に交換可能であり、特にフィリピンや東南アジア諸国において、プレイヤーの重要な収入源となっている [5]。AXSはゲームのガバナンスに参加するためのガバナンストークンとしても機能し、所有者はアップデートや資金運用に関する投票に参加できる [6]。2024年以降、ゲームは「Part Evolution」や「Homeland」などの新機能により復活の兆しを見せ、経済の安定化とプレイヤー体験の向上が図られている [7]

開発と基本コンセプト

Axie Infinityは、2018年にベトナムのゲーム開発スタジオSky Mavisによってリリースされた、ブロックチェーン技術を基盤とするオンラインゲームである [1]。このゲームは、ポケモンにインスパイアされた要素をライフシミュレーションやトレーディングカードゲームと融合させ、戦略的なバトルを軸とした「Play-to-Earn」(P2E)モデルを採用している。Axie Infinityの中心となるのは、「Axies」と呼ばれるデジタルクリーチャーであり、これらは非代替性トークン(NFT)としてイーサリアムブロックチェーン上に記録され、プレイヤーが真正な所有権を持つ [2]

ゲームの基本メカニクスとプレイヤー活動

Axie Infinityのゲームプレイは、Axiesと呼ばれるNFT化されたデジタルクリーチャーを収集、育成、対戦、交換するという一連の活動から成り立っている [10]。プレイヤーは、3体のAxiesからなるチームを編成し、PvE(プレイヤー対環境)の「アドベンチャーモード」や、PvP(プレイヤー対プレイヤー)の「アリーナモード」で戦闘を行う [11]。戦闘はターン制であり、各Axieの「スピード」ステータスが行動順を決定する。スピードが同じ場合は、残りのHPやスキル数、モラルなどの要因で順序が決まる [11]

Axieは9つのクラス(例:アクアティック、プラント、ビースト)に分類され、これらは「グー・チョキ・パー」的な関係で相互作用する。特定のクラスに有利なクラスで攻撃すると15%の追加ダメージが発生し、逆に不利なクラスに対してはダメージが15%減少する [11]。また、自分のAxieのクラスに合ったカードを使用すると、追加のバフや効果を得られる「クラスボーナス」も存在する。

2022年にリリースされた『Axie Infinity: Origins』では、リアルタイム戦闘に加え、「ラージ」や「ルーン」、「チャーム」などの新メカニクスが導入され、ゲームプレイが現代的かつアクセスしやすいものに進化した [14]

Play-to-Earnモデルの仕組み

Axie Infinityは「Play-to-Earn」(P2E)モデルの先駆けとして知られ、プレイヤーがゲーム内での活動を通じて収入を得られる仕組みを提供している [4]。この収益は主に2つの暗号資産を通じて実現される。

  • SLP(スムーズラブポーション):プレイヤーがアドベンチャーモードやアリーナモードで勝利することで報酬として得られるユーティリティトークン。主に新しいAxiesを「繁殖」(ブリーディング)する際に消費される [4]
  • AXS(アクシー・インフィニティ・シャード):ゲームのガバナンストークンであり、所有者はアップデートや資金運用に関する投票に参加できる。また、AXSは繁殖費用の一部や、暗号資産取引所での取引にも利用される [6]

これらのトークンは法定通貨に交換可能であり、特にフィリピンや東南アジア諸国において、多くのプレイヤーにとって重要な収入源となっている [5]

開発者と技術基盤

Axie Infinityは、2018年にベトナムのホーチミン市に本拠を置くSky Mavisによって開発・運営されている [19]。ゲームはイーサリアムブロックチェーンを基盤としているが、取引手数料(ガス代)の高騰や遅延を回避するため、Sky Mavisが独自に開発した「Roninサイドチェーン」上で動作している [3]

Roninは、イーサリアムと互換性を持つブロックチェーンであり、取引を数秒で完了させ、手数料を数セント以下に抑えることで、ゲーム体験をスムーズにしている [21]。2025年以降、Roninは「Optimism OP Stack」を採用したイーサリアムのレイヤー2ソリューションへと進化しており、より高いスケーラビリティとセキュリティを実現している [22]

経済システムとNFTの役割

Axie Infinityの経済は、NFTと暗号資産が支える「ゲームフィー」(GameFi)モデルに依存している [23]。すべてのAxies、土地(Land)、アイテムはNFTとして存在し、プレイヤーはそれらを真正に所有し、自由に取引できる [24]。この「デジタル資産の真正な所有権」は、従来のゲームと根本的に異なる特徴であり、プレイヤーに経済的エンパワーメントをもたらす [25]

Axiesの繁殖は、2体の親Axieを使用して新しいAxieを生成するプロセスであり、各Axieは最大7回まで繁殖可能で、その後は不妊となる [26]。繁殖にはSLPとAXSが必要で、使用量は過去の繁殖回数に応じて増加する [27]。この仕組みにより、希少性の高いAxiesを育成し、市場で高値で売却するという経済活動が成立している。

土地とホームランドゲームプレイ

Axie Infinityの仮想世界「ルナシア」には、トークン化された「土地」(Land)が存在する。これらの土地はNFTとして取引可能で、プレイヤーは土地を購入し、開発して資源を収集したり、建物や装飾を配置したりできる [28]。2024年以降に導入された「ホームランド」モードでは、プレイヤーが自分の土地を経営し、資源を収穫してレシピを解禁したり、新たなビジュアル要素を発見したりすることができる [29]。土地は単なる戦略的投資にとどまらず、ゲームプレイの幅を広げる重要な要素となっている。

今後の展望と復活の兆し

Axie Infinityは2021~2022年に急成長した後、プレイヤー数の減少に直面した。しかし、2024年以降、「Part Evolution」、「Homeland」、「Bounty Board」などの新機能の導入により、経済の安定化とプレイヤー体験の向上が図られ、復活の兆しを見せている [7]。これらのアップデートは、ゲームの長期的な持続可能性を高め、プレイヤーの経済的・社会的参加を促進する方向に進んでいる。

NFTとデジタル資産の所有権

Axie Infinityにおけるデジタル資産の所有権は、非代替性トークン(NFT)という技術的基盤の上に成り立っている。この所有権モデルは、従来のオンラインゲームにおける中央集権的な資産管理とは根本的に異なり、プレイヤーが自らのゲーム内アイテムに対して真正な経済的・法的支配を持つことを可能にする。この変化は、ブロックチェーン技術の導入によって実現されており、特にイーサリアムネットワークおよびその派生チェーンであるRonin上で、資産の発行、移転、所有の証明が行われる [2]

Axie NFTの技術的基盤とERC-721標準

Axie Infinityに登場する「Axies」は、すべてERC-721標準に準拠したNFTとして実装されている。ERC-721は、イーサリアム上で非代替性トークンを発行・管理するためのプロトコルであり、各トークンが一意の識別子(Token ID)を持ち、分割不可能かつ個別に取引可能であることを保証する [32]。この標準により、各Axieは他のどのAxieとも交換不可能な、真正に「唯一無二」のデジタル資産として位置づけられる。これらのNFTは、スマートコントラクトによって管理されており、そのコードは公開されており、誰でも検証可能である。これにより、所有権の移転や取引の透明性が確保され、中央管理者による改ざんや取り消しが不可能となる [33]

デジタル資産としてのAxieの特性と所有権の証明

各Axie NFTの真正な価値と独自性は、その「遺伝子情報」と呼ばれるメタデータに由来する。この遺伝子情報は、Axieの外見、戦闘能力(HP、スピード、耐久力など)、スキル、そしてレアリティを決定づける。これらの特性は、NFTのメタデータとして記録され、IPFSやクラウドストレージなどのオフチェーンに保存されるが、その参照先はブロックチェーン上に記録され、改ざん防止が図られている [34]。プレイヤーは、自分のウォレット(例:Roninウォレット)にAxie NFTを保持することで、その所有権を行使できる。所有権の証明は、ブロックチェーン上の取引履歴(トランザクション)によって可能であり、EtherscanやRoninチェーンエクスプローラーを通じて、誰でもその所有者のウォレットアドレスを確認できる [35]。このように、所有権は中央集権的なゲーム運営会社ではなく、分散型のブロックチェーンインフラによって保証される。

NFTの取引可能性と市場経済の形成

Axie NFTの最大の特徴の一つは、その完全な取引可能性である。プレイヤーは、公式のAxie Infinity Marketplaceや、Katanaのような分散型取引所(DEX)を通じて、Axiesを自由に売買、交換、または譲渡できる。この市場活動は、プレイヤーの戦略的選択(例:強力なAxieを購入して戦闘力を向上させる)や経済的活動(例:希少なAxieを繁殖・販売して利益を得る)の基盤となる。取引はRoninネットワーク上で行われるため、ガス代が極めて低く、迅速な取引が可能である [21]。この自由な市場経済は、ゲーム内資産にリアルな経済価値を付与し、プレイヤーが「所有」するという感覚を強化する。さらに、Roninブリッジを介して、NFTをイーサリアムメインネットと安全に転送できるため、資産の流動性と相互運用性が高まる [37]

その他のNFT:土地とゲーム内アイテム

所有権の概念はAxieのキャラクターにとどまらない。ゲーム世界「ルナシア」内の土地(Land)も、NFTとしてトークン化されている。これらの土地は、特定の座標を持つトークンであり、プレイヤーが購入して開発、管理できる。土地は、資源の収穫、建物の建設、新たなゲームモード「Homeland」における戦略的拠点としての役割を果たす [28]。このように、土地というゲーム内空間そのものがデジタル資産として所有可能になることで、プレイヤーの没入感と経済的関与がさらに深まる。同様に、ゲーム内の特定のアイテムや装飾品も将来的にNFT化される可能性があり、所有権の範囲は拡大し続けている。

所有権の意味と社会的インパクト

Axie InfinityにおけるNFTによる所有権は、単なる技術的な概念に留まらない。特にフィリピンやベトナムなどの地域では、Axie NFTの売買や繁殖による収益が、プレイヤーの主要な収入源となる「Play-to-Earn」(P2E)モデルを支える基盤である [5]。プレイヤーは、自ら所有するNFTを用いて労働し、その成果をリアルマネーに変換できる。この仕組みは、デジタル空間における新たな形の「労働」や「資本」の概念を生み出している。しかし同時に、この所有権モデルは新たな課題も提示する。例えば、初期投資として数体のAxieを購入する必要があるため、経済的に裕福でないプレイヤーは「Scholarship」と呼ばれる貸与プログラムに依存せざるを得ない。この場合、実際の所有権は「Manager」と呼ばれる資本提供者にあり、労働するプレイヤー(Scholar)は収益の一部を分配される形となる。この構造は、デジタル資産の所有権が、新たな経済的格差を生む可能性を示している [40]

Play-to-Earnモデルと経済システム

Axie Infinityは、プレイヤーがゲーム内での活動を通じて収入を得ることができる「Play-to-Earn」(P2E)モデルの代表的な例である。このモデルは、従来のオンラインゲームとは異なり、プレイヤーが単に娯楽を楽しむだけでなく、デジタル資産の所有や取引を通じて実質的な経済的価値を獲得することを可能にする。P2Eの中心には、ゲーム内でのアクティビティが直接的に収入に結びつくという構造があり、特にフィリピンや東南アジアの発展途上国において、多くの人々にとって重要な収入源となっている [5]

経済システムの基盤:SLPとAXS

Axie Infinityの経済システムは、二つの主要な暗号資産、すなわちスムーズラブポーション(SLP)とアクシー・インフィニティ・シャード(AXS)によって支えられている。SLPは主にゲームプレイの報酬として得られるユーティリティトークンであり、プレイヤーは冒険モード(PvE)や対戦モード(PvP)での勝利を通じて獲得できる [4]。このSLPは、新しいAxiesを育成(ブリーディング)する際に必要不可欠な資源であり、使用されると「バーン」(燃焼)されるため、経済のインフレを抑制する役割も果たしている [43]

一方、AXSはゲームのガバナンストークンとして機能し、所有者はアップデートや資金運用に関する投票に参加できる ガバナンストークン である [6]。AXSはまた、ステーキングによって追加の報酬を得ることも可能であり、これにより長期的な参加を促進する仕組みが整っている。両トークンは暗号資産取引所で法定通貨に交換できるため、プレイヤーはゲーム内の活動を現実世界の収入に変換することができる。

経済の安定化とインフレ対策

初期のAxie Infinityは、SLPの報酬が大量に供給されるため、強いインフレ圧力にさらされていた。この問題に対処するため、2024年以降、開発チームは経済モデルの根本的な見直しを実施した。その一環として、SLPの総供給量に440億トークンの上限が設けられ、持続可能な経済の実現を目指す deflationary(通貨価値の上昇)な方針に転換した [45]。さらに、SLPのバーン量に応じて一定割合の新規SLPが安定化基金に供給される仕組みが導入され、市場の価格変動を緩和するための自動調整機能が備わった [46]

また、ボットによる不正な報酬獲得を防ぐために、特定のゲームモードでのSLP報酬が停止された [47]。これにより、報酬の供給が抑制され、トークンの価値の安定化に寄与した。さらに、AXSの報酬システムも見直され、「bAXS」(bonded AXS)という非譲渡可能なトークンが導入された。bAXSはゲーム内での貢献度に応じて付与され、一定の条件を満たすことでのみAXSに変換できる仕組みにより、投機的な売買を抑制し、長期的なコミュニティ参加を奨励している [40]

発展途上国における社会的インパクト

Axie InfinityのP2Eモデルは、特にフィリピンにおいて社会的・経済的に大きな影響を与えた。COVID-19パンデミックによる失業が深刻化した時期、多くのフィリピン人がAxie Infinityを新たな収入源として利用し、一部のプレイヤーは現地の最低賃金を上回る収入を得ることに成功した [49]。この現象は「NFT農業」とも呼ばれるようになり、ゲームが単なる娯楽を超えて、生計を立てるための手段として認識されるようになった [50]

しかし、この依存にはリスクも伴う。トークン価格の急落やゲーム経済の不安定化により、初期投資を回収できず、債務を抱えるプレイヤーも現れた [51]。このように、P2Eモデルは新たな機会を提供する一方で、金融的脆弱性を高める可能性もある。そのため、開発チームは経済の持続可能性を高めるための改革を継続的に行い、プレイヤーのリスクを軽減することを目指している。

スカラーシップ制度とコミュニティ構造

高額な初期投資が障壁となることを受けて、Axie Infinityのコミュニティ内では「スカラーシップ」(Scholarship)制度が広く普及した。この制度では、資金に余裕のある「マネージャー」が、Axiesを「スカラー」(学者)と呼ばれるプレイヤーに貸し出し、その見返りにスカラーが稼いだSLPの一部を受け取るという仕組みである [52]。この制度により、経済的に不利な立場にあるプレイヤーでもゲームに参加できるようになり、グローバルなコミュニティの形成に貢献した。

スカラーシップは単なる経済的取引にとどまらず、多くの場合、マネージャーがスカラーにゲームの戦略や経済システムの理解を教える「メンタリング」の関係にも発展する [53]。このような非公式な知識共有は、コミュニティの学習能力と結束力を高め、システム全体の持続可能性を支える重要な要素となっている。さらに、プレイヤーは「ギルド」と呼ばれるグループに所属し、共同でイベントに参加したり、リーダーボードで競い合ったりすることで、より深い社会的つながりを築いている [54]

ゲームプレイと戦闘メカニクス

Axie Infinityのゲームプレイは、戦略的思考と経済的インセンティブが融合した複雑なシステムであり、プレイヤーは自らの所有する非代替性トークン(NFT)である「Axies」と呼ばれるデジタルクリーチャーを用いて、さまざまなアクティビティに参加する。中心となるのは、PvE(プレイヤー対環境)とPvP(プレイヤー対プレイヤー)の2つの主要なモードである [55]。これらのモードでは、プレイヤーは3体のAxiesからなるチームを編成し、ターン制のバトルを展開する。バトルの順序は各Axieの「速度」(Speed)ステータスによって決定され、速度が同じ場合は残りの体力、スキル数、モラルなどの要因で順序が決まる [11]

戦闘メカニクスとクラスシステム

Axie Infinityの戦闘は、戦略的な深さを特徴としており、9つのクラス(例:水生、植物、獣)が「グー・チョキ・パー」の原理に従って相互作用する [11]。特定のクラスに対する攻撃は、相性の良し悪しによって15%のダメージ増減が発生する。たとえば、水生クラスのAxieは植物クラスに強く、獣クラスには弱い。このバランスは、チーム編成と戦術的判断の重要性を高めている。さらに、各Axieが自身のクラスに一致する「カード」を使用すると、10%のダメージボーナスが付与される [11]。この仕組みにより、プレイヤーは単なるステータスの強さだけでなく、クラスの組み合わせとカードの選択にも注意を払う必要がある。

2023年以降、『Axie Infinity: Origins』の導入により、戦闘システムはリアルタイムに進化した。この新システムでは、「怒り(Rage)」、「ルーン(Runes)」、「チャーム(Charms)」といった新しいメカニクスが追加され、よりダイナミックで直感的なプレイ体験を提供している [14]。これらの要素は、プレイヤーの操作スキルとタイミングの重要性を高め、ゲームのアクセシビリティを向上させている。

ゲームモードと報酬

ゲームの主なモードは以下の通りである:

  • アドベンチャーモード(PvE):プレイヤーはAI制御の敵と戦い、スムーズラブポーション(SLP)を報酬として獲得する。このモードは初心者向けであり、ゲームの基本を学ぶのに適している [1]
  • アリーナモード(PvP):プレイヤー同士が直接対戦し、スキルを競い合う。勝利するとSLPやアクシー・インフィニティ・シャード(AXS)が報酬として与えられる [55]

これらの報酬は、ゲーム内経済の中心を成しており、SLPはAxiesの「繁殖」に、AXSはガバナンスやステーキングに使用される [4]。2026年以降、一部のモードではSLP報酬が停止され、ボットによる自動ファーミングを抑制し、経済の安定化を図る取り組みが行われている [63]

繁殖とカスタマイズ

Axiesの繁殖は、ゲームプレイの核心的な要素の一つである。2匹のAxieを交配させることで、新たなAxieを生み出すことができる。各Axieは最大7回まで繁殖可能であり、その後は不妊となる [26]。新しいAxieは親の遺伝的特徴(Traits)を引き継ぐため、プレイヤーは特定の能力や外見を持つ希少なAxieを生み出そうと戦略的に繁殖を行う。繁殖にはSLPとAXSが必要で、繁殖回数が増えるごとに費用が上昇する [27]

各Axieは6つの部位(耳、目、口、角、背中、尾)を持ち、それぞれが特定のスキルやカードに影響を与える。この部位の組み合わせにより、Axieの個性と戦闘スタイルが決まるため、プレイヤーは戦術に合ったAxieの育成とカスタマイズに時間をかける [66]

土地とホームランド

『ホームランド』(Homeland)の導入により、ゲームプレイは経済と探索の側面をさらに深めた。プレイヤーは仮想の土地「ルナシア」に所有する土地(Land-NFT)を管理し、資源を収集し、建物や装飾を配置して発展させる [29]。このモードでは、資源の管理、レシピの解禁、探索が新たな報酬源となり、PvEやPvPに加えて、より多様なゲーム体験を提供している [68]。土地は単なる投資対象ではなく、プレイヤーの個性を表現する「デジタル庭園」としても機能する。

ギルドとコミュニティ活動

2024年以降、公式ギルドシステムが導入され、プレイヤーは「ギルド」を結成または加入できるようになった [69]。ギルドはメンバー同士の協力、戦略の共有、共同タスクの遂行を促進する。ギルド間のリーダーボードやトーナメント(例:グランドトーナメント)では、AXSを含む報酬が用意されており、コミュニティの結束と競争心を高めている [54]。ギルドは、特に「スカラーシップ」(Scholarship)プログラムを通じて、経済的に不利なプレイヤーの参加を支援する社会的インフラとしても機能している [52]

Roninネットワークと技術基盤

Axie Infinityの技術基盤を支える中心的な要素が、Roninネットワークである。Roninは、Sky Mavisによって開発されたブロックチェーンであり、もともとはイーサリアムに接続されたサイドチェーンとして設計されていたが、2025年以降、イーサリアムのレイヤー2(Layer-2)ソリューションへと進化している [72]。この移行により、Roninはより高いスケーラビリティ、強化されたセキュリティ、そしてイーサリアムエコシステムとの緊密な統合を実現する。Roninの目的は、Axie Infinityのような大規模なWeb3ゲームが要求する、高速かつ低コストのトランザクション処理を可能にすることにある。

技術的機能:レイヤー2スケーリングソリューションとしての役割

Roninネットワークは、イーサリアムのレイヤー2ソリューションとして、主にロールアップ(Rollup)技術を採用している。具体的には、Optimism OP Stackに基づくオプティミスティックロールアップを運用しており、トランザクションの実行はRonin上(L2)で行われるが、そのデータは定期的にイーサリアムのメインチェーン(L1)に公開される [73]。このアーキテクチャにより、Roninはイーサリアムの強固なセキュリティデータ可用性を享受しつつ、独自の高速処理能力を発揮する。さらに、将来的にはRonin ZkEVMの導入が予定されており、ゼロ知識証明(Zero-Knowledge Proof)技術を活用することで、トランザクションの検証をより迅速かつ安価に実現する [74]。ZkEVMは、トランザクションの正しさをその内容を明かすことなく証明できるため、プライバシーと効率性の両立を図る。

Roninとイーサリアム間の資産移動を可能にするRoninブリッジも、技術基盤の重要な部分である。2025年4月に完了した移行により、Roninブリッジはもともとの中心化されたモデルから、Chainlink CCIP(Cross-Chain Interoperability Protocol) を基盤とする分散型の仕組みに刷新された [75]。CCIPは、複数の独立したオラクルがトランザクションを検証するため、信頼性の低い(trust-minimized)プロセスを実現し、資産移動の安全性を大幅に向上させた。この刷新は、2022年の重大なハッキング事件の教訓として行われたものであり、システムの信頼性回復に不可欠な一歩となった。

Roninネットワークの利点:イーサリアムとの比較

Roninネットワークがイーサリアムのメインチェーンに比べて持つ主な利点は、Web3ゲームのユーザー体験を最適化する点にある。

  1. 極めて低いトランザクションコスト:イーサリアムのガス代はネットワークの混雑により数ドルに達することもあるが、Roninではトランザクションコストがセントの一部に抑えられている [76]。これは、Axie Infinityのプレイヤーが戦闘、育成、取引を頻繁に行う上で不可欠な条件である。
  2. 高速な処理速度とスループット:Roninは約3秒ごとにブロックを生成するため、トランザクションの確認がほぼ瞬時に行われる [21]。これにより、プレイヤーはスムーズで中断のないゲームプレイを体験できる。
  3. ユーザーの利便性向上:低コストと高速処理は、特に新規ユーザーにとっての参入障壁を劇的に下げ、高額なガス代を気にせずにゲームに集中できる環境を提供する。
  4. イーサリアムとのセキュリティ統合:L2で処理されるトランザクションであっても、そのデータはイーサリアム上に記録されるため、Roninはイーサリアムのセキュリティを継承している。これにより、詐欺行為などのリスクが、OptimismやChainlinkのセキュリティメカニズムによって軽減される。
  5. エコシステムのスケーラビリティ:Roninの新アーキテクチャは、Axie Infinityに特化した閉じたネットワークから、Optimism Superchainネットワークの一員となるオープンなプラットフォームへと進化している。これにより、他のWeb3ゲームやdAppsの開発者もRonin ZkEVMを活用して独自のチェーンを構築できるようになり、より広範なエコシステムの形成が期待される [78]

セキュリティ対策と2022年ハッキング事件後の改善

Roninネットワークのセキュリティは、2022年3月に発生した6億2500万ドル相当の資産を盗まれた重大なハッキング事件を契機に、根本的な見直しが行われた。この事件の原因は、Roninのバリデータのうち9つのうち5つ(Sky Mavisが運営するものと外部パートナーのもの)がハッキングされ、マルチシグネチャーブリッジの脆弱性が悪用されたことにある [79]。この事件は、ネットワークの非中央集権化が不十分であったことを露呈した。

事件後、Sky Mavisは複数のセキュリティ強化策を実施した。まず、2023年4月に、Proof-of-Authority (PoA) からDelegated Proof-of-Stake (DPoS) へとコンセンサスメカニズムを移行した [80]。DPoSでは、$RONトークンをステーキングすることで、プレイヤーがバリデータにステークを委任(delegate)できるため、ネットワークのコントロールがより分散化され、攻撃の耐性が向上する。また、Safe(旧Gnosis Safe)と統合し、マルチシグウォレットのセキュリティを強化した [81]。これにより、重要なトランザクションには複数の署名が必要となり、鍵の種類(ハードウェアウォレット、ソフトウェアウォレットなど)も柔軟に設定できるようになった。

さらに、zkEVMの開発や、バグバウンティプログラムの実施、ユーザー教育の強化、そしてスポンサードトランザクションの導入など、多層的なセキュリティ対策が講じられている [82]。これらの取り組みは、技術的、組織的、運用的な側面からRoninのセキュリティを強化し、信頼回復を図っている。

インターオペラビリティと分散型検証の課題

Roninとイーサリアム間の資産移動を可能にするインターオペラビリティは、技術的な利点をもたらす一方で、コンセンサスメカニズムの違いから生じる課題も抱えている。イーサリアムがProof-of-Stake (PoS) を採用し、80万以上のバリデータが分散してネットワークを維持しているのに対し、RoninはDPoSを採用し、21のバリデータによってブロックが生成されている [80]。この構造の違いは、Roninのバリデータセットが比較的小さいため、コアリション攻撃のリスクが高くなるという課題を生んでいる。2022年のハッキング事件がまさにその例であり、Google Cloudのような大手インフラストラクチャプロバイダーが公式バリデータとして参加することで分散化を進めているが、2025年11月にも複数のバリデータがハッキングされる事件が発生しており、分散化の継続的な推進が求められている [84]

また、クロスチェーンブリッジ自体がWeb3エコシステムにおいて最も攻撃されやすいコンポーネントとされており、Roninブリッジも例外ではない [85]。CCIPへの移行はこのリスクを大幅に軽減するが、分散型検証の維持と、システム全体の非中央集権化の深化が、Roninネットワークの長期的な信頼性を確保する鍵となる。

トークンエコノミクスと経済の安定化

Axie Infinityの経済システムは、二つの主要な暗号資産であるスムーズラブポーション(SLP)とアクシー・インフィニティ・シャード(AXS)を中心に構築されており、これらはゲーム内の報酬、取引、ガバナンスの基盤を成している [86]。初期の段階では、過剰なトークン供給とインフレーションが経済の不安定化を招いたが、2024年以降、開発スタジオSky Mavisは持続可能な経済モデルを実現するため、包括的なトークンエコノミクスの再設計を進めてきた [45]

SLP:インフレ制御とDeflationaryモデルへの転換

SLPは、プレイヤーが冒険モード(PvE)や対戦モード(PvP)で勝利することで獲得できるユーティリティ・トークンであり、主に新しいAxiesの「Züchtung」(繁殖)に必要とされる [4]。この仕組みにより、SLPは「Play-to-Earn」(P2E)モデルの中心的な報酬として機能してきたが、2021~2022年にかけて、ゲーム内での継続的な報酬供給とボットによる自動ファーミングが、SLPの価格下落を引き起こす原因となった [63]

この問題に対処するため、2024年1月、Sky MavisはSLPの総供給量に440億トークンの上限(Supply Cap)を設ける決定を発表した [45]。これは、従来のインフレーション型経済から、**年間2%のDeflation(デフレーション)**を目標とする持続可能なモデルへのパラダイムシフトを意味する [91]。この上限の導入に加え、SLPの「バーン」(燃焼)メカニズムが強化された。Axiesの繁殖プロセスでは、必要なSLPが永久に破壊(バーン)されるため、これは経済システム内でのSLPの流出(Outflow)を生み出す。分析によれば、SLPのバーン率が新規発行量を1000%以上上回る状況も観測されており、強力なDeflationaryな圧力が働いている [46]

さらに、2026年1月には、特定のゲームモードにおけるSLP報酬が停止され、ボットによる不正なファーミングを抑制することで、トークンの新規供給を大幅に削減した [47]。これにより、SLPの価値を安定化させ、プレイヤーの報酬の実質的な価値を保護する取り組みが進められている。

AXS:ガバナンスと長期的安定性の基盤

AXSは、Axie Infinityのガバナンス・トークンとして、所有者がアップデートや資金運用に関する投票に参加できる権利を付与する [6]。また、AXSは繁殖手数料の支払いや、Roninネットワーク上の取引手数料の支払いなど、ゲーム内経済でも重要な役割を果たしている [95]

AXSの経済的安定化のため、Sky Mavisは2025年末にAXSステーキング(Staking)システムを再設計した。これにより、ステーキング報酬が9日ごとに5%ずつ段階的に減少する仕組みが導入され、投機的な短期保有を抑制し、長期的なネットワークへの参加を促進している [96]。また、2026年に導入されたbAXS(bonded AXS)という新しいコンセプトは、経済の安定化において極めて重要な役割を果たしている [40]

bAXSは、ゲーム内活動(繁殖、探索など)を通じて獲得できる非譲渡性のトークンであり、直接売買することはできない。プレイヤーはbAXSを一定の手数料を支払って通常のAXSに変換できるが、このプロセスにより、市場に直接放出されるAXSの量が制御され、約30%のAXS供給量の削減が実現された [98]。この仕組みは、短期的な投機ではなく、ゲームへの真の貢献と長期的な参加を奨励する「Play-and-Earn」モデルへの移行を象徴している。

経済安定化の成果と社会的影響

これらの包括的なトークンエコノミクス改革は、市場からのポジティブな反応を引き出した。2026年1月の改革発表後、AXSの価格は247%以上、SLPの価格も42%以上上昇し、投資家やコミュニティの信頼が回復したことを示している [99]

しかし、経済の安定化は依然として課題を抱えている。特にフィリピンなどの開発途上国では、Axie Infinityがパンデミック期に多くの家庭の重要な収入源となった一方で、トークン価値の急落により、高額な初期投資を回収できず、多額の借金を抱えるプレイヤーも現れた [51]。この「経済的依存」のリスクは、トークン価値の崩壊がコミュニティの社会的安定に深刻な影響を及ぼす可能性を示しており、持続可能な経済モデルの構築が社会的責任としても重要であることを浮き彫りにしている [101]

コミュニティと社会的影響

Axie Infinityは、単なるオンラインゲームにとどまらず、グローバルなコミュニティを形成し、特に発展途上国において深刻な社会的・経済的影響をもたらしている。このゲームは、Play-to-Earn(P2E)モデルを通じて、プレイヤーに実質的な収入源を提供することで、従来のゲームとは一線を画す存在となっている。特にフィリピンでは、2020年代初頭のCOVID-19パンデミックの影響で失業者が急増した時期に、Axie Infinityが新たな「デジタル労働」の形として広く受け入れられ、多くの家庭の生活を支える重要な手段となった [49]。一部のプレイヤーは、週に数千ペソ(フィリピン通貨)を稼ぎ出し、地元の最低賃金を上回る収入を得ていたと報告されている [103]

社会的構造と経済的依存

Axie Infinityのコミュニティは、単なるゲームプレイヤーの集まりではなく、複雑な社会的・経済的構造を形成している。その中心にあるのが「Scholarshipプログラム」(奨学金制度)である。この制度では、資金力のある「マネージャー」が、初期投資(3体のAxie NFTの購入)が困難な「スカラ(学者)」にAxiesを貸し出し、スカラがゲームで稼いだSLP(Smooth Love Potion)の報酬をマネージャーと分配する仕組みになっている。典型的な分配比率はスカラ7割、マネージャー3割であり、これにより経済的に不利な立場にある人々でも、ゲームに参加し、収入を得る機会が生まれる [52]。この関係は、単なる経済的取引にとどまらず、多くの場合、マネージャーがスカラにゲーム戦略や技術的な支援を提供する「メンタリング」の関係へと発展する。これにより、情報の非対称性が是正され、コミュニティ内での知識の共有とスキルの向上が促進される [53]

しかし、この経済的依存は二面性を持つ。2022年以降、暗号資産市場の低迷やゲーム内経済の不安定化により、SLPやAXS(Axie Infinity Shards)の価値が急落した。これにより、多くのプレイヤーが当初の投資を回収できず、借金を抱える事態に陥った。フィリピンでは、数千人のプレイヤーが経済的損失を被り、ゲームを離れざるを得なくなったと報じられている [51]。この現象は、「Crypto-Colonialism」(暗号植民地主義)と批判されることがある。つまり、発展途上国のプレイヤーが低賃金で「デジタル労働」を行い、その価値の大部分が先進国にいる開発者や大規模な投資家に流れているという構造が指摘される [107]

ギルドと地域コミュニティの形成

Axie Infinityの社会的影響は、経済的層にとどまらず、地域的なコミュニティの形成にも及んでいる。ゲーム内では「ギルド」(Guilds)が組織され、プレイヤーが集団で戦略を練り、競い合う。2024年に正式に導入されたギルドシステムは、チーム戦やリーダーボードの導入を通じて、コミュニティの結束を強化し、集団的な目標達成による報酬を提供することで、個人プレーに偏りがちなP2Eモデルに社会的要因を取り入れている [54]。これらのギルドは、DiscordやFacebookグループなどの外部プラットフォームを活用して、情報交換や支援ネットワークを構築している。特にフィリピンでは、地域の若者がギルドを通じてつながり、新たな社会的基盤を形成している [109]。このように、Axie Infinityは、ゲームの枠を超えて、現実世界の社会的インフラの一部として機能している。

文化的受容の違い

Axie Infinityの受容は、地域によって大きく異なる。アジア、特に東南アジアでは、ゲームは「生活の手段」として強く認識されている。一方、欧米諸国では、その技術的な革新性やブロックチェーン、NFTを通じたデジタル所有権の概念に焦点が当たっている [110]。この文化的差異は、プレイヤー体験にも影響を与える。アジアのプレイヤーは、収益を最大化するための「生産性」を重視し、ゲームプレイが日常のルーティン化する傾向がある。これに対し、欧米のプレイヤーは、投資や技術的な探求、コミュニティガバナンスへの参加といった、より戦略的・長期的な視点からゲームに接する傾向が強い [111]。このような違いは、ゲームの開発戦略やマーケティングにも反映される必要がある。

不平等と持続可能性の課題

Scholarshipプログラムは、参加の機会を拡大する一方で、新たな形の不平等を生み出す。初期投資の必要性が、資本を持つプレイヤーと持たざるプレイヤーの間の格差を固定化する。また、報酬の分配においても、マネージャーが収益の大部分を占める構造が、労働するスカラと資本を提供するマネージャーの間の経済的格差を再生産する可能性がある [112]。この問題に対処するため、Sky Mavisは2026年頃から、ゲーム内経済の持続可能性を高めるための改革を進めている。その一環として、不正なボットによる報酬の肥大化を防ぐため、特定のモードでのSLP報酬を停止し、AXSの発行量を削減するなど、インフレを抑制する措置を講じている [63]。さらに、「bAXS」(bonded AXS)という、非移転可能な報酬トークンを導入することで、短期的な投機を抑制し、長期的なエンゲージメントを促進しようとしている [40]。これらの改革は、「Work-to-Earn」から「Play-and-Earn」へのモデル転換を目指しており、ゲーム性と経済性のバランスを再構築しようとしている。

セキュリティと規制の課題

Axie Infinityは、ブロックチェーン技術を基盤とするPlay-to-Earn(P2E)モデルの先駆けとして注目を集めた一方で、その成長とともに重大なセキュリティリスク規制上の課題に直面してきた。これらの課題は、ゲームの経済システムの安定性、ユーザーの資産保護、そして長期的な持続可能性に深刻な影響を与える可能性がある。特に、2022年の大規模なハッキング事件と、グローバルな規制環境の不透明さが、このプロジェクトの最大の挑戦となっている。

ハッキング事件とRoninネットワークの脆弱性

2022年3月、Axie Infinityの基盤となるRoninネットワークが大規模なハッキング攻撃を受け、約6億2500万米ドル相当の暗号資産が盗まれるという、当時史上最大級の暗号資産関連の被害が発生した。この攻撃は、Lazarus Groupとされる北朝鮮に拠点を置くハッカー集団によるものとされ、米国連邦捜査局(FBI)もその関与を認定している [115]。攻撃の原因は、Roninネットワークのバリデーター(検証者)のセキュリティが不十分だったことにあった。攻撃者は、Sky Mavisが運営するバリデーターを含む9つのうち5つを乗っ取り、マルチシグネチャーブリッジの脆弱性を突いて不正な取引を承認した [79]

この事件は、Roninネットワークが当時採用していた**Proof-of-Authority(PoA)**というコンセンサスアルゴリズムの欠点を露呈した。PoAは、少数の信頼できるエンティティがブロックの検証を行うため、高速で低コストな取引が可能だが、その分、中央集権化のリスクが高くなる。攻撃者はまさにこの中央集権的な構造を悪用し、ネットワークの制御を奪った。このハッキング事件は、ユーザーの信頼を大きく損ない、ゲームの経済に深刻な打撃を与えた。

セキュリティ強化策と技術的進化

Roninネットワークのハッキング事件を受けて、開発スタジオSky Mavisは、セキュリティの抜本的な見直しと強化を実施した。その中心となるのが、コンセンサスアルゴリズムの移行である。2023年4月、RoninはPoAから**Delegated Proof-of-Stake(DPoS)**に移行した [80]。DPoSでは、$RONトークンを保有するユーザーが自分のステークをバリデーターに委任することで、より多くの参加者がネットワークのセキュリティに貢献できるようになる。これにより、検証者セットの中央集権性が低下し、攻撃の難易度が大幅に上がった。

さらに、マルチシグネチャーウォレットのセキュリティも強化された。Roninは、Web3分野で最も信頼されているマルチシグウォレットの一つであるSafe(旧Gnosis Safe)を採用した [81]。これにより、重要な取引には複数の承認が必要となり、単一の鍵の漏洩による資産損失のリスクが軽減された。また、2025年には、RoninブリッジがChainlink CCIP(Cross-Chain Interoperability Protocol)に移行した [75]。CCIPは分散型のオラクルネットワークを用いて、チェーン間の資産移動を安全に実現するため、中央集権的なブリッジに比べてハッキングのリスクが大幅に低減される。

規制リスクと法的分類の不確実性

Axie Infinityは、そのグローバルな性質から、各国の異なる規制環境に直面している。最大の課題の一つは、AXSSLPという二つの主要トークンの法的分類である。特に米国証券取引委員会(SEC)は、Howeyテストに基づき、多くの暗号資産を「証券」として扱おうとしている [120]。AXSはガバナンス機能を持つため、投資家がその価値上昇を期待して購入する可能性があり、証券としての性質を強く持つ。もしSECがAXSを証券と認定すれば、Sky Mavisは登録や開示義務を負い、莫大なコンプライアンスコストが発生する。

欧州連合(EU)では、MiCA(Markets in Crypto-Assets Regulation)という新たな規制が2025年から段階的に適用され、暗号資産の分類と規制が統一される予定である [121]。MiCAでは、AXSやSLPは「ユーティリティトークン」として分類される可能性が高いが、規制当局の最終的な判断が注目されている。また、反マネーロンダリング(AML)規制も重要な課題である。米国財務省は、Roninブリッジのハッキングで盗まれた資金の洗浄に関与したとして、暗号資産ミキサー「Blender.io」を制裁対象に指定した [122]。これは、Play-to-Earnゲームのインフラがマネーロンダリングの温床となるリスクを示しており、各国の金融当局が同様のプラットフォームを監視対象にしていることを意味する。

税務と消費者保護の課題

ユーザーにとっては、税務上の義務が大きな課題となる。ドイツでは、AXSやSLPの売却益は、1年間の保有期間を経過すれば非課税となるが、1年以内の売却や1000ユーロを超える利益には課税される [123]。一方、米国では、暗号資産は「財産」として扱われ、Farmで得たトークンの時価が直ちに課税対象となる [124]。フィリピンでも、Axie Infinityで得た収入は課税対象であると国税庁(BIR)が明言しており、プレイヤーは自ら申告する責任がある [125]

また、消費者保護も重要なテーマである。ゲーム内の経済システム、特にトークンの供給と需要のメカニズムについての透明性が求められている。Sky Mavisは、SLPの供給量に440億の上限を設けるなど、インフレ対策を講じているが、プレイヤーはこれらの複雑なトークノミクスを十分に理解しているとは限らない。さらに、スマートコントラクトのバグやハッキングによる資産損失に対して、開発者に賠償責任があるのかという法的問題も未解決である [126]。2022年のハッキング事件では、Sky Mavisが一部の資金を返済したが、すべての損失を補填したわけではなく、この点が大きな論争を呼んだ。

参考文献